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再生医療の治療実績を紹介します。

日差しが温かく感じられる日が多くなってきました。気がつけばもう四月になりましたね。
今回は当院で実施している再生医療の一つ、自家幹細胞移植療法について、実際の治療例を写真や動画を交えて紹介したいと思います。

自家幹細胞移植療法とは、体のさまざまな臓器や組織を作る元となる「幹細胞(かんさいぼう)」を使って、病気や怪我で失った臓器の機能を改善させることを目的とした再生医療の一つです。この再生医療の最大のメリットは、動物本人の細胞を使うため免疫拒絶反応が起こらない点です。そのため衰弱した動物や高齢の動物に対しても安心して行える利点があります。また再生医療は、これまで治療法が存在しなかった病気に対し、新しい治療法となる可能性があることから近年注目されています。
自家幹細胞移植療法の詳しいしくみや流れについては、こちらにまとめてありますので読んでみて下さい。

では、実際の治療例を紹介します。
今年の1月1日に、突然両後肢が麻痺して動かなくなった9歳のミニチュアダックスの女の子が来院しました。この子は、1年半前に椎間板ヘルニアを発症しており外科手術を行なっています。この手術のあとの経過は良く、これまで歩行も問題はありませんでしたが、診察の結果、今回は別部位の椎間板ヘルニアの発症の可能性があると考えられました。すぐにMRI撮影を行い、ヘルニアの起こっている部位を特定し緊急手術を行いました。

椎間板ヘルニアは、脊椎の間に存在する椎間板に変性が生じ、その内容物が神経を圧迫することで発症します。圧迫を受けた部位や程度に応じて後肢の麻痺や排尿傷害などさまざまな神経症状が起こります。椎間板ヘルニアは、その臨床症状に応じて5段階にグレード分類され、今回は比較的重度なグレード4に分類されました。グレード4の場合、外科手術による改善率は約90%程度で、術後から歩行が改善するまでの期間は1-4週間程度と報告*1されています。

手術後、傷の状態は順調に回復していきましたが、懸命なリハビリにもかかわらず後肢の動きは認められませんでした。手術から4週間経過したところで、歩行に改善が認められなかったため、再生医療による脊髄損傷部位の回復を試みることにしました。

培養3日目の脂肪幹細胞の写真

写真1:培養3日目の脂肪幹細胞の写真

自家幹細胞移植療法では、内ももの脂肪組織を1g採取し、幹細胞を無菌的に分離・培養します(写真1)。

採取に必要な時間は30分程度で、日帰りが可能です。培養には約2週間程度必要ですが、1回の採取で最大3回投与することが可能になります。また投与は1週間に1回の頻度で点滴を行い、日中の入院だけなので負担はほとんどありません。

培養をはじめてから2週間後、投与する直前の動画がこちらになります(動画1)。


後肢は自分の意志で動かすことはほとんどできず、おしりを擦りながら前足だけで歩行している様子がみられます。

ところが投与から2日目に、後肢を少し動かす仕草をはじめました。4日目には力が入るようになり、6日目には立ち上がることができるようになりました。さらに、7日目にはフラフラとしながらも短距離の歩行が可能になりました(動画2)。

2回目の投与をしてからは、さらに反応も良くなり(動画3)、ふらつきはまだ残っていますが、少しずついつもどおりの運肢ができるようになりました。特に右足を力強く歩行しているのがわかると思います。左足はすべることがありますが、1週間前と比較すると歩行時間、距離ともに延長してきました。

3回目の投与を行なってから2週間後の動画がこちらです(動画4)。歩調はさらに改善し、ボールを追いかけて遊ぶことも可能になりました。左足はまだ滑ることがありますが、現在リハビリを兼ねて自宅で軽いボール遊びを行なっています。

今回治療を通して、投与回数を重ねるごとに歩様が改善していく傾向が見られました。幹細胞を投与した際も悪い副作用は認められず、むしろ、「食欲の増進」、「毛艶が良くなった」、「活発になり5歳くらい若返った」と飼い主さんは話していました。これらの作用は幹細胞が全身をめぐりさまざまな組織へ分布した結果と思われます。

最後に、現在、再生医療によって改善することが見込まれている疾患は、脊髄損傷、慢性腎不全、慢性関節炎、骨折癒合不全などがあります*2。特に、今回のように時間の経過した脊髄損傷においても歩行に改善が認められたことは、慢性疾患の治療への大きな前進になると期待されます。また近年では、糖尿病、肝疾患、血栓性疾患、そして膵炎などへの応用も検討されています。しかし一方で、再生医療は先端医療であるのと同時に、発展段階の治療法でもあります。そのため、全ての事例で良好な結果が得られるとは限りません。疾病のステージや動物の年齢等さまざまな条件により、治療効果がどの程度認められるのか、今後注意深く注目していく必要があります。
これまで慢性疾患のため治療困難と言われている場合や、そもそも治療法がないような疾患でお悩みの場合は一度相談してみて下さい。これまでの検査データを持参して頂ければ、自家幹細胞移植治療に関するカウンセリングも当院で行えます。

執筆 再生医療担当 井上 快

参考文献
*1 Scott, H. W. Hemilaminectomy for the treatment of thoracolumbar disc disease in the dog: a follow-up study of 40 cases. J Small Anim Pract. 1997;38(11):488-94.
*2 久保雄昭,岡田邦彦 獣医療における脂肪幹細胞の可能性 ~脂肪組織を利用した再生医療~. CAP;2010(258):38-45.

コメント

  1. よもみけ より:

    動かなかった後肢に力が入り、ボールで遊べるまでに回復できて、このワンちゃんはとても幸せですね。
    この治療法により、今まで治療を諦めざるを得なかった動物たちが、楽しく暮らせるようになったら素敵だと思いました。
    これからも頑張ってください!

    • 井上 より:

      よもみけさん
      コメントありがとうございます。
      これまで治療が困難だった疾患に対して再生医療が選択できるようになったことは、動物やご家族はもちろん、私たちにとっても大きなメリットとなりました。今後も多くの動物とご家族が幸せに暮らせるようスタッフ一同励んでいきたいと思います。

      担当 井上

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